学生による授業評価について II

―「人間と環境氈v1996年度アンケート調査から―
<中京女子大学 教育紀要'96>


1.はじめに
 1.1 調査の目的
 1.2 96年度「人間と環境I」の概要
 1.3 調査実施と回答状況

2.学科別集計結果
 2.1 質問群1.講義の評価(個別事項)
 2.2 質問群2.講義の評価(全般的に)
 2.3 質問群3.回答者の受講行動

3.授業評価と受講行動
 3.1 授業評価と出席状況
 3.2 授業評価と着席位置

4.調査結果の総括と97年度への課題
 4.1 調査結果の総括
 4.2 自由意見について
 4.3 評価調査自体について

5.おわりに





 

1.はじめに

1.1 調査の目的
 前年度にひきつづき、筆者が担当する現代教養科目「人間と環境―氈vにおいて、学生 による授業評価を試みた。今回の調査の目的は、前年度の調査において、調査実施のタイ ミングを誤ったために、きわめて少数の回答しか得られなかったことを反省し、できるだ け履修者全員に近い回答を得ること、前年度アンケートの結果から、講義の進め方につい て筆者が試みたいくつかの「修正」について、学生の評価を見ること、そしてさらに97年 度に向けての課題を探ることである。

1.2 96年度「人間と環境I」の概要
 96年度は、以下のような内容で実施した。

授 業

テーマ

使用ビデオ

第1回

「序論“人間と環境”とは」

    

水の惑星:地球

第2回

「地球を巡る水」

『地球を巡る水』1996,NHK

第3回

「緑の巨大ダム=熱帯雨林」

『アマゾン熱帯林の再生にかける』1996,NHK

第4回

「大河とくらす=ベンガル・デルタ」

『黄金のベンガル』1991,TBS

第5回

「沙漠と沙漠化=現状と対策」

『沙漠の緑化』1995,放送大学

見えない環境

第6回

「健康と病気」

『日本を狙う伝染病』1996,TV朝日

第7回

「環境としての貧困」

『スモーキーマウンテンの子供たち』1995,NHK

日本の環境と生活

第8回

「食糧問題」

『天ぷらソバから世界が見える』1995,関西テレビ

第9回

「自然災害」

『戦後日本の主な災害(ニュ−スから)』 NHK

第10回

「平野と河川」

『信濃川に愛を込めて』1990,新潟県

第11回

「まとめ・レポート説明・評価調査等」

    

より良い環境を求めて

第12回

「より良い環境を求めて=女性の役割」

『地球を救う女たち』1995,NHK

第13回

「講義の最終まとめ」

    


1.3 調査実施と回答状況
 前年度調査の反省から、今年度においては、成績評価のためのレポートの出題と解説を 行う日(学生には前週に予告}に同時に調査を実施した。
 当日出席して回答を提出した学生の数、および受講登録者数に対する比率を下に示す。 前回と異なり、すべての学科において90%以上の学生から回答を得ることができた。履修 者そのものが前年度の1.4 倍に増加していたこともあって、回収した調査票は 225という膨大な数となった。

学 部

学 科

回答者

登録者

比 率

人文学部

児童学科

43

47

91.5

人文学部

アジア文化学科

70

75

93.3

健康科学部

栄養科学科

28

30

93.3

健康科学部

健康スポーツ科学科

84

88

95.5

合  計

   

225

240

93.8

* 他に若干名の過年度生が履修 <調査には参加したが集計からは除外>


 表に示すように、学科間で回収率に差がないこと、もっとも少ない栄養科学科でも28票 に達することから、今回は学科別の集計・比較が可能となった。

 
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2.学科別集計結果

 はじめに、質問順に学科別の集計結果を示す。数値はいずれも比率(%)である。

2.1 質問群1.講義の評価(個別事項)

 1-a 教員の講義態度をどう感じたか
        きわめて   まあ   やや きわめて   不明  総計
          熱心   熱心  不熱心  不熱心  無回答
   児  童   51.2   44.2    0.0    0.0    4.7   100
   アジア文   57.1   35.7    0.0    0.0    7.1   100
   栄  養   57.1   35.7    0.0    3.6    3.6   100
   スポーツ   31.0   54.8    1.2    0.0   13.1   100
   総  計   46.2   44.4    0.4    0.4    8.4   100
   <前年度   53.5   43.1    0.0    0.0    3.5>

 1-b 講義中の「発声,発音」はどうだったか
          明快  あまり きわめて  総計
          良好 良くない   悪い
   児  童   81.4   18.6    0.0   100
   アジア文   87.1   12.9    0.0   100
   栄  養   85.7   14.3    0.0   100
   スポーツ   69.0   31.0    0.0   100
   総  計   79.1   20.9    0.0   100
   <前年度   84.5   15.5    0.0>

 1-c 黒板への「書き出し」はどうだったか
          明快  あまり きわめて   不明  総計
          良好 良くない   悪い  無回答
   児  童    9.3   81.4    7.0    2.3   100
   アジア文   14.3   80.0    5.7    0.0   100
   栄  養   10.7   71.4   17.9    0.0   100
   スポーツ   15.5   69.0   15.5    0.0   100
   総  計   13.3   75.1   11.1    0.4   100
   <前年度   17.2   77.6    5.2    0.0>

 1-d 講義中の「説明」はどうだったか
          論点   やや きわめて   不明  総計
          明確  不明確  不明確  無回答
   児  童   79.1   18.6    0.0    2.3   100
   アジア文   87.1   12.9    0.0    0.0   100
   栄  養   85.7   14.3    0.0    0.0   100
   スポーツ   72.6   27.4    0.0    0.0   100
   総  計   80.0   19.6    0.0    0.4   100
   <前年度   89.7   10.3    0.0    0.0>

 各集計表の下端に付記した95年度の数値と比べると、全体に評価が若干厳しくなってい る傾向が認められる。これは、やはり前年度のサンプルに有意の偏りがあったことによる ものと見られる。
 基本的には、前年度同様、講義態度、発声・発音、説明の明確さでは高い評価を得るこ とができた。中で注目される点としては、スポーツ科学科の学生による評価が他の学科に 比べて全般的に低いことである。
 黒板への板書については、86%が「少し、あるいは大変わかりにくかった」としている。 前年度の反省から、筆者なりに努力したつもりではあったが、依然として筆者の字の汚さ、 板書の乱雑さについて、学生の評価は厳しいようである。
 調査票では、この他に「(教員の}講義への準備は十分だったと思うか」という質問があ るが、結果は1-aの「態度」とほぼ同一であるので割愛する。

2.2 質問群2.講義の評価(全般的に)

 2-a 講義の内容はわかりやすかったか
          良く   やや きわめて   不明  総計
        わかった 理解困難 理解困難  無回答
   児  童   74.4   25.6    0.0    0.0   100
   アジア文   78.6   21.4    0.0    0.0   100
   栄  養   89.3   10.7    0.0    0.0   100
   スポーツ   61.9   33.3    2.4    2.4   100
   総  計   72.9   25.3    0.9    0.9   100
   <前年度   81.0   17.2    0.0    0.0>

 2-b この講義を受けて,得るところがあったか
        おおいに   まあ  あまり まったく   不明  総計
         あった  あった なかった なかった  無回答
   児  童   55.8   44.2    0.0    0.0    0.0   100
   アジア文   57.1   37.1    5.7    0.0    0.0   100
   栄  養   53.6   42.9    3.6    0.0    0.0   100
   スポーツ   27.4   65.5    3.6    1.2    2.4   100
   総  計   45.3   49.8    3.6    0.4    0.9   100
   <前年度   55.2   41.4    1.7    0.0    0.0>

 この2問についても、スポーツ科学科の学生を除いて、ほぼ前年度並みの高い評価と なっている。ここでも、前項と同様にスポーツ科学科の学生による評価が目立って低いこ とが注目される。


2.3 質問群3.回答者の受講行動

 3-a あなた自身の出席状況は
          全て  3/4以上  3/4未満  総計
          出席   出席
   児  童   39.5   39.5   20.9   100
   アジア文   35.7   44.3   20.0   100
   栄  養   32.1   67.9    0.0   100
   スポーツ   29.8   40.5   29.8   100
   総  計   33.8   44.9   21.3   100
   <前年度   36.2   56.9    6.9>

 3-b 授業中の着席位置は
        だいたい だいたい だいたい   一定  総計
         前の方  中ほど  後の方 してない
   児  童   18.6   46.5   25.6    9.3   100
   アジア文   45.7   31.4   14.3    8.6   100
   栄  養    7.1   53.6   28.6   10.7   100
   スポーツ   27.4   44.0   11.9   16.7   100
   総  計   28.9   41.8   17.3   12.0   100
   <前年度   36.2   44.8   10.3    5.2>

 3-c 授業中の私語について(うるさいと感じるか)
       いつも   時々  いつも   時々   特に  その他  総計
       かなり  かなり   少し   少し 感じない
  児  童   2.3    4.7   11.6   65.1   14.0    2.3   100
  アジア文   0.0    8.6   10.0   57.1   24.3    0.0   100
  栄  養   0.0    3.6   17.9   60.7   17.9    0.0   100
  スポーツ   2.4    6.0    6.0   47.6   35.7    2.4   100
  総  計   1.3    6.2    9.8   55.6   25.8    1.3   100

 3-aの出席状況の「全て」と「3/4 以上」合わせて79%という結果は、前年度調査の 93%に比べると明らかに低く、前年度調査の回答学生に偏りがあったことを示している。 また、学科別に見た場合栄養科学科が 100%、アジア文化学科、児童学科が80%、スポー ツ科学科が70%ときれいに別れたことも面白い。
 もっとも興味深い項目となったのは、3-bの着席位置であった。ここで目立つのはアジ ア文化学科の学生の場合「前の方」の比率が最大であることで、「後方型」の児童学科、栄 養科学科と明確な対比を示している。
 調査票では、この他に「この科目を受講した理由」という質問があるが、特に興味ある 結果は得られていないため割愛する。
 3-cの「私語被害」は、前年度の自由回答に「私語」に関する不満、苦情がきわめて多 かったことを受けて設けた質問である。「特に(うるさいと)感じない」とする回答では、 スポーツ科学科の36%から児童学科の14%まで、学科によって大きな差が認められる。全 体として、10%を超える学生が、程度の差こそあれ「いつもうるさい」と感じていること は深刻であるが、一方で、この質問に対応する形で「きわめて私語の少ない授業と思う」 「(私語を)厳しく注意する姿勢が良い」といった自由意見が相当数あったことは、担当者 として救われる思いである。

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3.授業評価と受講行動

 前年度調査において、学生の「着席位置」と評価の間に一定の関係があることが見いだ された。今年度は、幸いほぼ全受講者を対象として調査することができたので、いくつか の評価項目について「出席状況」と「着席位置」という2つの行動調査項目との関連を検 討した。

3.1 授業評価と出席状況

 1-a 講義中の「説明」はどうだったか

    

 1-b 講義の内容はわかりやすかったか

    

 1-c この講義を受けて,得るところがあったか

    

 1-a〜1-cの3つの集計とも、大きくは共通の傾向を示している。
 すなわち「良く出席した学生ほど、講義の説明を容易にキャッチでき、話の内容も良く わかり、そして、受けた講義を高く評価している」ということである。
 このような場合、いわゆる「トリとタマゴ」の議論になり勝ちであるが、全体の79%が 授業の4分の3以上、34%が全て出席したとしている条件のもとでの集計であることから、 これは決して一部のエリート学生の動向に左右された結果ではない。むしろ、出席率の良 い学生の方から厳しい評価が出るという可能性もあるのであり、筆者としてはこのような 結果になったことでむしろ安堵しているところである。

3.2 授業評価と着席位置

 2-a 講義中の「説明」はどうだったか

    

 2-b 講義の内容はわかりやすかったか

    

 2-c この講義を受けて,得るところがあったか

    

 2-a〜2-cの集計においては、前出の「出席状況」より一層極端な(ある意味では明快 な)結果が現れた。先と同様の表現を用いれば「前の方に座る学生ほど、説明を容易に キャッチし、内容もより良く理解し、講義を高く評価している」のである。
 多くの学生は、初期の1、2回で座る位置が定まり、それ以降は大体同じ場所に座る傾 向があることが経験的に知られている。すなわち、優秀でやる気のある学生達だけが長期 にわたって「次第に前方に集まる」などということはほとんど考えられない。したがって、 この場合は、第一に熱心な学生がはじめから前方に集まっていたこと、第二には元々同じ 程度の学生であれば、前の方に座った方が内容の理解が進み、より学習効果が上がること を、端的に示したと考えられる。

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4.調査結果の総括と97年度への課題

4.1 調査結果の総括
 95年度にひきつづき、講義評価アンケートを実施した。今回は、全学科にわたり90%以 上の回収率を得て集計、分析を行ったが、結果が示す基本的な方向は前回と大きく異なる ものではなかった。
 筆者の講義については、口頭でのプレゼンテーションが高い評価を得た一方で、相変わ らず黒板の「字」についての評価は厳しいものとなった。学科別に見ると、健康スポーツ 学科のみが他の3学科に比べて全般的にやや評価が厳しくなっている。
 「出席状況」と学生の意識、理解度とが関連することは、ある意味では当然であるが、今 回の集計でも数値的に証明された。より注目されるのは「着席位置」で、「出席状況」を上 回る強い相関を示した。
 このような傾向を見ると、一部の専門学校等で実施している「完全指定席」「出席絶対重 視」というシステムを採った場合、個々の学生の意識、理解度、さらには授業への評価は、 はたしてどのようになるのであろうか。「出席」については、当然一定のプラス(落ち込み の予防)が期待される反面で、再三指摘している「私語被害」の拡大につながることが予 想される。「位置」については、消極的な学生を「前に座らせる」効果が期待される一方で、 「後ろに下げられる」ことで意欲を削がれる学生が生じる可能性も無視できない。
 筆者は、このような席の指定、出席の厳しい管理といったシステムは、大学における比 較的規模の大きい講義では採るべきでないと考えている。(参加、達成度が最も重要な体育 実技や語学等では当然異なる)ここでは、むしろ出席率の高い、前の方で集中して講義に 参加した学生達が、筆者の講義に相対的に高い評価(板書以外!)を与えてくれたことを 素直に受けとめたいと考える。

4.2 自由意見について
 95年度調査において具体的な指摘があったのは、「黒板の字」を除くと、「1回完結でな く、もっと体系的な話をして欲しい」「資料を配付して欲しい」「冗長なビデオソフトを何 とかして欲しい」という3点であった。
 第1点に対して本年度では、本稿の「概要」に記したように全体を4つの群に集約し、相 互に関連づけながら講義を展開した。今回の調査では、同様の意見がまだ散見されるもの の数は減少しており、一応の効果はあったと思われる。
 第2点については、毎回B4版1枚 の資料プリントを作成、配布した。学生にはおおむね好評であったが、一時学生数を大幅に上回るプリントが消失するといった現象が起きるな ど、若干のトラブルも生じた。
 第3点については、95年度授業における学生の反応等のデータも併せて検討した結果、 本年度は全て上映時間30分以内に限定し、超えるソフトについては30分以下に編集した 上で使用した。この結果、今回の調査では「冗長、飽きる」といった意見はほとんどなく なった反面、乱暴な編集(ブツ切り的)に対する不評が若干寄せられた。
 これらおよび「黒板」以外では、具体的な不満、要求で特に多数寄せられたものはなかっ た。

4.3 評価調査自体について
 前年度、今年度の2カ年で、一般的な授業評価の形はほぼできたと考えている。今年度 については、 225票という多くのデータの分析となり、相当の時間と労力を要した。
 実は調査票においては、他に9本のビデオソフトに関する詳細な質問が含まれていたの であるが、9本×3項目×225人分の集計という作業で、未だ十分な分析に至っていない。 これについては、作業の遅れだけでなく、個々のビデオソフトの評価という細かい問題に なるため、公開の形で報告することは考えていない。
 次年度以降については、質問項目を精選、圧縮した形で基本的な調査は続けるつもりで あるが、他に、中間での課題小レポートなども併用した、新たな形の学生とのコミュニケー ションを試みたいと考えている。

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5.おわりに

 学生による授業評価には批判的な意見もある。多くは「学生の機嫌をとることにつなが る」といったものであるが、担当教員自身が、自分と自分の授業のために実施するもので ある限り、そのような批判は当たらない。本論でも述べてきたように学生は決して甘くな いし、また、学生の言い分すべてを鵜呑みにする必要も無いからである。
 調査結果は、教員や授業だけを評価するものではなく、反転して集団としての受講学生 の実態を鮮やかに映し出す情報源でもあるのである。
 一部の大学のように、制度的に全教員に義務づけるといったことは決して好ましくない が、本学において、もう少し広く取り組んでみてもよい課題ではなかろうか。


 文 献

寄藤 昂(1996):学生による授業評価について―「人間と環境1」におけるアンケート調査の試み―,   中京女子大学教育紀要第2号,9-17

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